悲しきアメリカ

20歳のはじめの頃、友人と5名でアメリカへ旅行した事がある。友人がホームステイをしていた家にお邪魔することになった。サンフランシスコからレンタカーを借りて、東南の街へ。何時間も走ったところにある街。名前は忘れたがたしかリビングストンという街の近くの小さな町だったような気がする。アメリカは平凡な中流家庭でもプールがある。アメリカって凄いなあ。これでは戦争に負ける訳だとわけのわからない事を思ったような。ある日みんなが出かけたが、自分は運転の疲れがたまり、一人昼寝をしてしまった。起きるとだれもいない。車社会のアメリカだが、この日は車も無く暇なのでとぼとぼと一人徒歩で町へでかけた。30分以上歩いただろうか?一軒のバーが目に留まった。小さな町なのでスーパーとここのバーくらいしかない。時間を持て余していたので興味本位で入ってみる事にした。まず、入り口にセキュリティーが立っていておまけにドアが牢屋の鉄格子のような頑丈な作り。なんだかおかしいぞ?まあ、いいか。楽天的な思いで暗い店内に入る。中は日中なのに薄暗く、照明が無いと見えない状態だ。人が結構いるが暗くて良く解らない。とにかくタバコの煙が凄い。カウンター席があいていて取り合えず座る。愛想の無い店員が<何飲むか?と>変な発音の英語で聞いて来る。ビールを頼み、その頃吸っていた煙草を取り出し、回りを見渡すと全てメキシコ人だ。ここはメキシコからの不法滞在労働者の憩いの場のバーということがこの時わかった。どうりで東洋人を見て愛想もなく怪訝な顔をしていた訳だ。急に弱気になりかなりアセる。ちょっと横のカウンターでは酒を飲みながら奇声を上げている酔っぱらいがいて、たまにこっちをみてなにかわけの解らない事をしゃべっている。なんだよここは?ますますビビりのテンションが張りつめる。その時自分に話しかけて来たメキシコ人の若いヤツがいた。<おまえ何人だ?なんでお前がここにいるんだ?>と発音の悪い英語で話しかけて来た。自分も片言の悪い発音で<日本人で旅をしている>というような事を話したと思う。その後はお互いに片言で精一杯会話をして仲良くなりビールをおごり合って酔っぱらってしまった。なんでも労働者は稼いだ金でほとんど飲んじゃうらしい。なぜか店内を可愛い女の子が通りすぎるが、その子は英語が話せないらしい。仲良くなったヤツに<彼女は何歳だ?聞いてくれ>と言うと、たしか<50ドルだ>という訳の解らない答えが返ってきた。若かった自分はこの時メキシコ貧困の悲しみを感じ、なんとも切ない気持ちになった。その後彼と別れトボトボと帰路についた。しこたま飲んでいたのにまだ日暮れ前だった。